2016年7月20日水曜日

洋楽で英語を学習

2016年現在、スマートフォンやラップトップがあれば、ウェブで海外の新聞やサイト・ブログ、YouTubeで海外の動画に簡単にアクセスできます。

インターネットがあまり普及していない時代に比べたら、英語学習の環境としては贅沢な時代となっております。しかし、日本人の英語力はあまり向上していないようです。
 
素晴らしい環境があろうと、なかろうと英語を

 その理由はいくつか考えられますが、一つはやはり文法だろうと思われます。これまでの文法の解説方法はあまりにも複雑だからです。

 たとえば、「I will make him help you.」のような、ごくやさしい英文でも、あっという間に難解になってしまいます。SVOC、第5文型、使役動詞、目的語、補語、OをCする、原形不定詞、代名詞の主格・目的格――といった解説がなされるからです。

 このように複雑になるのは、「英文を作る」という発想に立っているからで、そのためは、正しいルールを学び、それを使えるようにしないといけない、だから文法を精密にしっかりと理解しようとなるからです。

 それも、その解説が本当に精密で正確であれば良いのですが、そうとも言えない点が多々あります。例えば上の「使役動詞」という解説ですが、たとえば、「This present will make her happy.」などの場合のmakeも、やはり「使役」動詞なのでしょうか。

 ところが、以前にもお話した通り、英語をとらえる方法はもう1つあります。それは、「作る」とは逆の発想、つまり、「受け取る」という視点に立った文法(受信文法)です。この文法を使うと、必要な解説が激減します。なぜなら、初めから“正しい英文”を使って、その意味を取ろうとするからです。正しい英文には、正しい文法だけでなく、正しい語法も含まれているため、無闇に頭を悩ませる必要がなくなるのです(※)。

(※)昨年、この文法を使って、中学1年生20数人にたいして進行形、動名詞、分詞構文、独立分詞構文までを45分で教えましたが、大変好評で、今年も20人ほどがやって来てくれました。アンケートには“Perfect!”と書いてくれた生徒もいて、大いに盛り上がりました。
素材にこだわる!

 さて、文法の発想を変えるとして、つぎに重要なのは素材です。学習者によっては、どのような素材を使っても、自らそこに面白さを発見して前向きに取り組んでいく人もいますが、どちらかというとそれは少数派で、大半の人は素材を「つまらない」(面白くない)と感じます。つまり、「英語以前」のところでつまずいてしまうのです。

 これは、ある意味でとても素直な感覚で、実際問題として世の中にはつまらない内容の素材が結構あります。また、たとえば、いくら基礎からやり直すと言っても、大学生や社会人にたいして中学の教科書を使おうとすると、気分が萎えてやる気が起こらないという事も十分に有り得ます(※)。

(※)実は、この点については、大学生や社会人に限らず、高校生たちもとても鋭敏な感覚を持っていて、つまらない英文を即座に見抜きます。彼らの大半は、問題集・教科書の英文や文法書の例文を面白いとは思っていません。
 私も、英語を苦手とする学生たちを教え始めたとき、この点に大いに頭を悩ませました。そして、それこそ懸命にあれこれと試行錯誤してみました。その結果、「ほぼ100%うまくいく」と確信を持てる素材にたどり着くことができたのですが、それが映画や洋楽でした。

これは本当に不思議なもので、たとえばUSAフォー・アフリカの「We are the world」などを素材として扱うと、内容も文法もかなり高度ですが、普通なら授業が始まって3分で寝てしまうような学生が目をランランと輝かせて懸命についてきます。また、質問を振っても、何とかして答えようとします。

 そこで、今回は映画の主題歌を使って、文法の中でも難解でかつ解説が不十分になりがちな文法ポイント「仮定法」の“肝”の部分を、シンプルに説明したいと思います。

アルマゲドンで英語を斬る!

 素材は、映画「アルマゲドン」の主題歌の「I don't wanna miss a thing」です。好き嫌いはあるでしょうが、取りあえず出だしの歌詞は次のようになっています。

I could stay awake just to hear you breathing.
Watch you smile while you are sleeping while you're away and dreaming.

 この英文はたった2行ですが、重要な文法ポイントがいくつも含まれています。今回は1行目の英文を使って解説したいと思います――と言っても、不思議に思う人もいるかも知れません。どこにも“If”がないからです。

 どうして無いかと言うと、実は一般に言われる「仮定法」というのは、いわば枝葉末節の部分で、本当に重要な点は他にあるからです。そこを理解すると、英語の本質に関わる、より大きく深い枠組みの中で、無理なく仮定法を理解し、使えるようになれます。

 では、早速つぎの英文の意味を「受け取って」見ましょう。分かりやすいように、まず「意味の塊」で区切っておきます。

I could stay awake / <just> to hear you breathing.

(※)stay awake:起きたままでいる breathe:息をする(ここでは「寝息をする」)
justを< >に入れているのは、to hearをクリアーにつかむためです。to形(不定詞)の意味については過去のコラム「スピーキングが英語を変える」を参照して下さい。
 ヒントとしては、過去形にはつぎの2つの意味があるという点を押さえて下さい(これについては過去のコラム「中学英語で英会話は十分にできる」を参照して下さい)。    

①「過去」を表す=「~した」(時間の過去形)
②「想像」を表す=「想像しているだけのことだけど~」(想像の過去形)

(※)②については、「今想像した」の方が分かりやすいという人はそれでも構いませんが、あくまでも「今想像している」です。詳しくは拙著「英語がスラスラ分かるようになる魔法の本」を参照して下さい。
 ①の意味は容易に分かりますね。②の意味については、「これは、今私が心の中で想像しているだけなのですが…」という前振りを入れて考えるようにすると、うまく理解することができます。

 さて、ではこの英文のcouldはどちらの意味でしょうか――正解は②です。

 この文章は、若者が恋人に対する想いを語っている言葉で、直訳すると「(これは今僕が心の中で想像しているだけのことだけど)僕は君が寝息をしているのを聴くだけのためにずっと起きていることだってできる」になります。

 これではあまりも直訳過ぎますので、もう少し柔らかく訳すと、「君の寝息を聴くためだけに、ずっと起きていることだってできる」という感じになります。

 恋人がすぐそばで目を閉じて寝ている。その静かな息遣いをいつまでも聴いていたい。ただ聴くためだけのために、ずっと起きていることさえできる。そのぐらい君のことを深く想っている…つまり、couldによって、恋人に対する優しく、深い想いが表現されているわけです。

 これを①の意味、つまり「起きていることができた」と「過去」の意味に取ると、この歌詞の伝えるニュアンスを正しく「受け取る」ことはできません。

 さて、過去形のこのような使い方は、何もロマンチックな歌詞だけに限られるものではありません。日常会話やビジネス会話においても頻繁に使われます。でも、残念なことに、私たちは大抵の場合、「If+動詞の過去形=仮定法過去=事実に反する仮定」というところから入り、演習を繰り返すため、そのまま頭が固まってしまい、「想像の過去形」の微妙なニュアンスが理解できず、また使うこともできません(※)。

(※)今このコラムを読んでいる人の中にも、英会話をしていて、「このIfがついていない過去形は何を意味するのだろう」とか、「今言おうとしていることは、事実に反する内容だろうか?それだと仮定法過去にしないといけない…」などと悩んだ経験のある人がいるはずです。
会話に応用する!

 「想像の過去形」が理解できると、つぎのような英文の意味も正確に「受け取れ」ます。

Could you lower the price?
(価格を下げていただくことは可能でしょうか)

 この例では、「今私が想像しているだけのことですが…」という前振りが入ることで、全体の意味がぼやけて、「丁寧な表現」になっています。

 さらに、Ifを使ったつぎのような文の意味も正確に理解できます。

If we could launch the product by May, / that would give us a major advantage.
(もし製品を5月までに発売できると、私たちにとってとても有利になると思われます)

 この例でも、「私が想像しているだけのことですが」という前振りが入ることで、(断定的でない)「控え目な表現」になっています。後ろに続く文でも、それに合わせて「想像の過去形」が使われています。

 ちなみに、この文は「未来」について予想しています(※)。

(※)そもそも、英語では、「未来」のことはまだ分からないので、現在からの推測という形で表現します。じつに論理的でクールだとは思いませんか。
 もちろん、つぎのような文の意味も理解できます。

I wish / I could speak English well. 
(英語がうまく話せたらいいのになぁ)

 詳しく見ると、この英文の意味は「反事実」(事実と反対)ですが、それは文脈からそういう意味になるだけのことに過ぎません。つまり、結果的にそうなっているだけのことです。

 「受け取る」という発想で考える場合には、意味だけを追いかければ良いので、いちいち事実かどうかを判断する必要がありません。ですので、会話において理解しやすくなるだけでなく、格段に使いやすくなります。

 最後に、一般的に教えられている典型的な「仮定法」のケースを見て見ましょう。

If I had enough time and money, / I would enjoy travelling the world by a luxury liner.
(もし十分な時間とお金があれば、豪華客船で世界を旅するのだけれど)

 「想像の過去形」が理解できると、英語を深くつかむことができるようになり、英語にたいする感覚自体が大きく変わります。「作る文法」から「受け取る文法へ」。ぜひ「受信文法」(インターフェース・グラマー)の考え方を身に付けて、英語を一気に身近なものにして下さい。

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